2025 追記
2017年の試作機について再考察を行った。
当時は原因不明としていたが、現在の知見から考えると、2基のコイルを並列接続したことで、直流抵抗値(DCR)だけでなく
合成インダクタンスも大きく低下し、結果として高域寄りの特性となっていた可能性がある。
また、当時の配線や磁極、巻線方向について詳細な記録が残っていないため、2基のコイルの位相関係によって、
弦振動から得られる信号の一部が打ち消されていた可能性も否定できない。
今後、LCRメーターおよび周波数特性の測定環境を整備し、当時の試作機を可能な限り再現した上で、直列・並列接続による
電気的特性の変化と、位相関係を含めた検証を行う予定である。
2025 MIC#1開発
かねてより憧れのあったハムバッカー搭載ギターを3年前に購入したものの、ほとんど使用していないことに気付いた。
なぜ憧れていたギターを手に取らなくなったのか。その原因を考察した結果、自身が求めるサウンドと、
一般的なハムバッカーに感じていたコンプレッション感や中高域のキャラクターが一致していない可能性に思い至った。
そこで過去の試作機を振り返ったところ、2010年および2013年に製作したシングルコイル2基直列接続構造のピックアップが、
現在求めている方向性に近いのではないかと考えた。
今回の試作ではアルニコ5ロッドマグネットを採用し、DCRを6〜7kΩ程度に設定した上で、2基のシングルコイルを
直列接続する構造を予定している。
また、過去の開発ではDCRのみを指標としていたが、今回からはLCRメーターを導入し、インダクタンス測定も実施する予定である。
今後はDCRだけでなく、インダクタンス、共振周波数、磁力などの測定値も記録しながら、実際のサウンドとの相関を検証していきたい。
2017 並列接続試作
友人のギタリストより、前回の結果を受けて新たな製作依頼を受けた。
前回試作機よりもさらにクリアなサウンドを目指し、ベースで一般的に用いられるネック側とブリッジ側の2基のシングルコイルを、
一つの標準ハムバッカーサイズにまとめるような発想で設計を行った。
具体的には、通常出力のシングルコイルを2基製作し、それらを並列接続する構造とした。
完成した試作機は予想していたサウンドとは異なり、低域が少なく、高域が強く感じられた。また、巻線量から想像していた以上に
出力も弱く感じられた。
当時はその原因を特定することができず、期待した結果には至らなかった。
2013 アコースティックギター実験
友人のギタリストとの会話の中で、シングルコイルのノイズと、一般的なハムバッカーに感じるコンプレッション感や、
タッチに対するダイナミクスへの不満を耳にした。
そこで、2010年に製作した「シングルコイル2基構成ピックアップ」を、通常出力の標準ハムバッカーサイズとして再構築すれば、
ノイズが少なく、タッチレスポンスに優れたピックアップになるのではないかと考えた。
DCRはヴィンテージ系ピックアップを参考に、6〜7kΩ程度となるよう設定し、通常出力のシングルコイルを2基製作して、
直列接続する構造とした。
評価用としてジャンクで入手したアコースティックギターを修理し、サウンドホール内へ搭載して検証したところ、
ピッキングのニュアンスが非常によく現れ、低域から高域まで自然につながるサウンドが得られた。
主観的には、一般的なマグネティックピックアップというよりも、マイクで録音した音に近い自然な印象を受けた。
2013年 アコースティックギターへの搭載実験
2010 初号機試作
当時組んでいたバンド仲間のギタリストより、HH仕様のFender JaguarをSS仕様へ変更できないかとの相談を受けた。
当時はピックアップキャビティの拡張など、不可逆的なボディ加工を避けたいという考えがあり、Jaguarに標準的に搭載される形状の
シングルコイルへ交換するのではなく、標準的なハムバッカーサイズのケース内部へロッドマグネット式シングルコイルを収める構想を
立案した。
しかし、単一のシングルコイルではハムバッカーケース内部のスペースが大きく余ってしまう。
そこで、ロッドマグネット式シングルコイルを2基搭載し、通常のシングルコイルモードに加えて、シングル/シリーズ切替により2基を
直列接続したハムキャンセルモードを使用できる構造を考案した。
設計の根拠としては、シングルコイル時の直流抵抗値(DCR)を約6〜7kΩとした場合、2基の直列接続時には12〜14kΩ程度となり、
いわゆるハイパワーピックアップと近い数値になることが挙げられる。
また、Fender Precision Bassにおいても、2つのコイルを組み合わせたハムキャンセル構造が実用化されており、その成功例も参考とした。
近い発想のピックアップとして、Fender Telecaster Thinlineなどに搭載されたWide Range Humbuckerが存在する。
しかしWide Range Humbuckerは、樹脂製ボビンに巻線を施し、ねじ加工されたCuNiFeロッドマグネットを使用する特徴的な構造を持つ。
一方、本試作機はアルニコロッドマグネットをフラットワークへ圧入し、ロッドマグネットを中心としたコイルを2基配置して
直列接続する構造であり、基本設計は大きく異なる。そのため、サウンド面でもWide Range Humbuckerとは異なる傾向になると予想した。
完成した試作機は、シングルコイルモードにおいて十分なシングルコイルらしさを持ちながら、標準的なハムバッカーサイズの
金属カバーを採用したことでシールド処理が容易となり、外来ノイズも非常に少ないものとなった。
また、直列接続によるハムキャンセルモードでは、当初予想していた「高出力ゆえに高域が失われたサウンド」にはならず、
シングルコイルらしい抜けの良さを残したまま、コンプレッション感の少ない自然なレスポンスとパワー感を両立したサウンドとなった。
依頼主であるギタリストに実際に使用してもらったところ、当初の目的であったシングルコイルモード以上に
ハムキャンセルモードを気に入ってもらうことができた。
設計者としては予想外の結果であったが、この経験が後の開発に大きな影響を与えるきっかけとなった。
2010年 初号機の内部構造
2010年 初号機の金属カバー装着状態
2010年 初号機のギター搭載状態